ウェルエイジングコラム

汗が止まらない!更年期に悩むホットフラッシュを生活習慣で対処する方法
更年期の不調のなかでも代表的な症状と言われ、多くの女性を悩ませるホットフラッシュ。冷房が効いているはずなのに自分だけ突然汗だくになってしまったり、ほてりや動悸が起こったりと、日常生活で大きなストレスを感じていませんか。ここでは、なぜホットフラッシュが起こるのか原因を理解し、症状が出たときの対処法と生活のなかでできる対策についてしっかり学んでいきましょう。
ホットフラッシュは更年期に起こる代表的な症状
更年期は閉経の前後5年を合わせた10年間のこと。日本人女性の平均閉経年齢が50.5歳ということから、おおよそ40代半ば~50代半ばごろの時期がそれに当たります。更年期に起こる不調については症状のあるなしや程度の重さに個人差がありますが、比較的症状が軽い人でも経験する割合が多いのがホットフラッシュです。
ホットフラッシュとは、前触れなく突然汗が止まらなくなったり、動悸やほてりが起こったりする症状。人によっては一日に何度も汗が噴き出て、数枚のタオルや着替えを常備しなくてはならないほどの場合もあります。なぜ更年期にこのような症状が起こるのか、医療法人みらいグループ理事長を務める産婦人科医・石渡瑞穂先生に聞きました。
きっかけは加齢によるエストロゲンの分泌低下
ホットフラッシュは、加齢による女性ホルモンの分泌量低下がきっかけで起こります。まず、40代半ばごろになると卵巣の働きが鈍くなることにより、徐々にエストロゲン(女性ホルモン)の分泌量が減っていき、排卵が行われず月経が起こらなくなり、閉経へと向かいます。ここで問題となるのが、卵巣機能が追いつかないのにもかかわらず、脳はまだ女性ホルモンを分泌させようとがんばってしまう点です。

石渡先生は、このときの脳の混乱がホットフラッシュにつながると言います。「ホルモン分泌の管制塔のような働きをする下垂体という器官は、これまで同様に“エストロゲンを出しなさい”と卵巣に司令を送り続けます。このとき、下垂体の上にある脳の視床下部もたくさんのホルモンを出して下垂体の働きを促そうとします。実はこの視床下部は、自律神経を整える臓器でもあります。エストロゲンが思いどおりに分泌されないことをきっかけに、視床下部全体が混乱をきたし、自律神経にまで影響を及ぼしてしまいます。自律神経は、血圧や心拍、発汗、血管の収縮などの調節を担当するため、その不具合によりホットフラッシュが起こってしまうのです。」

更年期に起こるあらゆる不調は、女性ホルモンの分泌低下を起因とした脳の混乱による自律神経失調症のようなものです。なかでもホットフラッシュが更年期の代表的な症状として語られるのは「症状が認識しやすいからではないか」と、石渡先生は言います。
ホットフラッシュが出ている場合、不眠や疲れやすさ、メンタル不調など別の症状も同時に出る場合があります。しかし、それらは年齢のせいだと考えてしまいがちで、ホルモン由来の症状であることに気づかない方が多く、突然滝のように汗をかくわかりやすい変化であるホットフラッシュで、更年期の症状だと自認するケースが多いのです。
突然の汗には副交感神経を優位にする行動で対処
実際に、ホットフラッシュが起こったときにはどのように対処すればよいのでしょうか?外出先や職場など、人目がある場所でも手軽に行える方法について聞きました。
「ホットフラッシュが起こるとき、脳の視床下部は“働け、働け”と焦っており、交感神経が活発になりすぎている状態です。そのため、心身をリラックスさせて副交感神経を優位にするような行動がホットフラッシュを落ち着かせる鍵となります。」
腹式呼吸をする
「まず行ってほしいのは、腹式呼吸を意識することです。腹式呼吸は主に就寝中に無意識下で行われる呼吸方法で、血圧を下げたりリラックスしたりと副交感神経を優位にしてくれます。」

やり方としては、①まず楽な姿勢で座り、みぞおちに手を当てます。②ゆっくりと長く鼻から息を吸い、みぞおちを膨らませます。③ゆっくりと鼻から息を吐き、みぞおちの辺りが凹んでいることを確認します。これを1セットとして何セットか繰り返すことで、昂った交感神経が落ち着き、早くホットフラッシュを収めることができます。
アロマを持ち歩いてリラックス
香りにもリラックス効果があります。嗅覚の情報は脳に送られたあと、自律神経を司る視床下部で処理されるため、副交感神経を優位にするアロマの香りにより症状を落ち着かせることが期待できるのです。おすすめは、ラベンダー、イランイラン、ベルガモット、レモンバーム、ペパーミント、ローズマリー。外出先でも使えるように、アロマスプレーやフレグランスを持ち歩き、ハンカチに含ませて顔に当てる方法がおすすめです。

汗に対応できる服装を選ぶ
ホットフラッシュがいつ起こるかわからないという不安も大きなストレスになり、脳に緊張感を与えます。そのため、外出時には汗パッド付きの下着や、接触冷感の素材の衣類を選んだり、体温調整できるように重ね着できる服を選んだり、というのもひとつの手。通気性がよく着心地のよいリラックスできる服装で過ごしましょう。
ストレス解消が最大の予防策
日々の生活習慣によって自律神経を整えていくことも、ホットフラッシュの予防策として有効です。自律神経を整えるためにストレスは大敵のため、なるべくリラックスして副交感神経優位の時間をつくることを意識しましょう。いまはカラダがホルモンバランスの変化に対応するためにがんばっている時期なのだと自覚し、家事や仕事など完璧を目指さずに、手を抜くことを自分に許すのも大切です。
無理に眠らなくていいので、横になる
生活のなかで、一番大切にしてほしいのが「睡眠」です。脳が交感神経優位になっていることで、寝つきが悪くなったり、不眠に悩まされたりすることも更年期症状として出てきます。無理に眠ろうとすると、かえってストレスになってしまうので、意識してカラダを横にすることもポイントです。
40、50代からは「生活のスケジューリング」を
夜に眠りやすくするためのスケジュールを組み立てるというのも、自律神経を整えるのに有効です。夜にスムーズに眠りにつくためには、日光を浴びながら軽く運動することが効果的で、通勤などで歩く方はよいですが、そうでない方は散歩の習慣を取り入れるなどしてみましょう。そのほか、午後はカフェイン入りの飲み物を控えてハーブティーに置き換えたり、寝る前はぬるめのお風呂に浸かってカラダを温めたりすることも、眠りやすくするためには効果的です。
規則正しい生活リズムを身につけることは、更年期以降の健康的なカラダづくりにもつながるので、これを機に意識してみましょう。
まとめ
ホットフラッシュの症状がどのくらい続くかは個人差がありますが、ホルモンバランスの乱れにもだんだん脳が適応していくことから、多くの場合が半年~1年程度で重度の症状からは改善していくと言われています。現代の40、50代女性は、仕事や家事、子育てや親の介護など背負っているものが多く、そもそも休めない環境的な問題も抱えている世代です。そこに更年期の不調が加わることで、生活全体が立ちいかなくなってしまうケースもあります。もし生活習慣から整えていきたいという場合は、今回の記事を参考に、できる対策や予防から取り入れていきましょう。また、体調が辛い場合は無理をせず、婦人科に相談し、漢方やホルモン補充療法など、適切な治療を受けることも検討してみてください。
Text:Mai Miyajima
【監修】

石渡 瑞穂(いしわた みずほ)
医療法人みらいグループ理事長、産婦人科医。東京大学附属病院およびその関連病院での勤務を経て、2014年に札幌みらいクリニック開設。2018年より現職。地域医療の発展と女性の一生のケア・サポートに努めている。