ウェルエイジングコラム

トイレの回数増えた?頻尿や尿漏れの悩みを専門医が解決!
「トイレが心配で、そこまで尿意がないのにトイレに行きがち……」「大笑いした拍子に、ちょろっとモレてしまった」「便座に座ろうとした直前で間に合わず、トイレを汚してしまった」など、排尿にまつわることはなかなか話題にしづらく「自分だけかも……?」と思う方もいるかもしれません。
実は、過活動膀胱による頻尿は40代以降、年齢が上がるにつれて増加しており、尿漏れは40歳以上の女性の4割以上が経験しています。
つまり、いまだけではなく、これからも付きあっていくのが排尿のトラブルと言えるでしょう。そこで、
トイレが近くなったかも?と感じているいまからできること・始めたいことを、泌尿器科医の関口由紀先生に聞きました。
頻尿ってどういう状態のこと?
頻尿の目安は、1日の尿の回数が、日中9回以上、夜間1回以上とされていますが、重要なポイントは「尿の回数に自身が困っているかどうか」です。この回数より多くても、日常生活で困っていなければ、あまり気にする必要はありません。
頻尿にはエイジングやライフイベントによる影響も
頻尿にはいくつかの原因が考えられます。特に出産や加齢などによる骨盤底筋のゆるみや、更年期以降に女性ホルモン(エストロゲン)が減少して尿道や膀胱の粘膜が薄くなることも影響すると考えられます。
また、尿が少量しか溜まっていないのに強い尿意があったり、トイレに行けなくなることが心配で早めに排尿する習慣があったりすると、膀胱が過剰に活動することが原因で頻尿になることもあります。
水分の取り過ぎによる「多飲多尿」ももちろん影響します。1日の適切な水分量は、季節によって異なりますが、夏は2リットル、冬は1リットル程度が目安とされており、適切な水分量を超えると頻尿の原因になります。また、飲み物の種類も影響し、カフェインが含まれるコーヒーや緑茶、炭酸飲料、アルコール、柑橘系のジュースなどは膀胱を刺激することがあります。
なぜ、尿が漏れてしまうの?
頻尿だけでなく、40代以上の方が多く経験している尿漏れにも原因があります。尿が漏れてしまうのは、尿の出口である尿道を閉めきれていないためです。
尿道の開け閉めをコントロールしているのが骨盤底筋といわれており、尿道のほか、腟・肛門といった排せつ機能を支えている筋肉の集合体です。

尿漏れには、ふたつのタイプがある
腹圧性尿失禁
咳やくしゃみをしたり、笑ったり、重いものを持ちあげたときなど、お腹に力が入った、つまり腹圧がかかったときに漏れてしまうタイプで尿道を締める機能の衰えが原因です。
切迫性尿失禁
突然、強い尿意におそわれる「過活動膀胱」の症状で、トイレに行く途中やトイレに座る直前に漏れてしまうタイプです。水音を聞いたり、寒さで誘発される場合もあり、脳が膀胱の働きをうまく調節できないことで、膀胱が過剰に活動してしまうことが原因だと考えられています。加齢などによる骨盤底筋のゆるみ、たるみが原因となることが多いとされています。
このふたつが一緒に起きる「混合性尿失禁」タイプもあります。

若いときの尿漏れと、どう違う?
20~30代の尿漏れは、もともと骨盤底筋が弱かったり薄かったりという、体質的なことが関わっている場合が多く、妊娠・出産によって骨盤底筋がゆるんでしまうことでも起こります。
40代になると、全身の筋肉量の減少が始まるのですが、それは骨盤底筋も例外ではなく、薄く弱くなっていきます。それに加えて「肥満」も骨盤底筋に負担をかけています。さらに追い打ちをかけるのが「更年期」。閉経にともなう女性ホルモン分泌量の低下で、粘膜や筋膜の弾力がなくなってくるため、尿道周辺がいっそうゆるみやすくなるのです。
頻尿・尿漏れを放っておくとどうなってしまうのか
頻尿も尿漏れも、骨盤底筋の前側が衰えてくる初期の状態です。骨盤底筋の後ろ側が衰えてくると、思わずおならが出てしまったり、便漏れなどにもつながります。骨盤底筋が全面的に衰えてくると、内臓が支えられなくなって下垂し、下腹がぽっこりと目立つようになります。そのまま内臓が下垂していくと「骨盤臓器下垂」、最終的に内臓が腟口から出てきてしまう「骨盤臓器脱」という状態になり、治療や手術が必要になるケースがあります。骨盤底筋を維持することは、今後の生活の質、エイジングケアに直結すると言えます。
今からできる尿トラブル対策5選
頻尿・尿漏れは、実は生活習慣とセルフケアで改善できます。
加齢に抗えない私たちにとって、頻尿や尿漏れは、放置すれば進行していきますし、反対に今から対策をすれば、リスクを減らすことができるのです。
その①:骨盤底筋を鍛える運動
骨盤底筋を意識的に動かす習慣をつけると、特に尿漏れはかなりの確率で改善していきます。医療機関でも、患者さんに骨盤底筋トレーニングを指導するケースも多いです。
骨盤底筋トレーニング
①あおむけ寝で、脚を腰幅に開いてひざを立てる
②肛門を3秒間ギューッと締めて、パッとゆるめる(×5回)
③尿をガマンするようなイメージで、腟と尿道(骨盤底の前側)を、3秒間ギューッと締めて、パッとゆるめる(×5回)
④息を大きく吸い、ゆっくり吐きながら骨盤底筋全体を体内にグーッと引き込む(×2回)

立ったまま、座ったままでもできますが、骨盤底筋が動かしやすいのがこのあおむけ寝の姿勢です。
肛門・膣・尿道を、別々に動かすことがポイントです。
その②:膀胱トレーニング習慣
排尿の間隔を少しずつ伸ばして、膀胱に尿を溜められるようにするトレーニングです。尿意を感じてもすぐにトイレに行かず、まず5分間ガマンしましょう。自宅など、すぐにトイレに行ける環境で行なうことが大切で、特に「早めにトイレに行っておく」という習慣がある人にはおすすめです。
「トイレをガマンすると膀胱炎になるのでは?」と心配になる方もいるかもしれません。すでに膀胱炎の症状がある場合は、十分に水分を取って、尿意が起きたときに排尿しましょう。
その③:腹圧をかけない姿勢
背筋がすっと伸びた正しい姿勢は、腹圧がかかりにくくなります。日常的な猫背・反り腰姿勢は要注意。“尿漏れピンチ”のひとつであるくしゃみの前に背筋をピンと伸ばすことで、ピンチを回避しましょう。
あとは排尿時、無意識に軽く力んでいませんか? 腹圧をまったくかけなくても尿は出せます。
その④:吸水アイテムを使う習慣
頻尿・尿漏れ対策として、以前は生理用品で代用していた人も多かったのですが、生理用品は水分を吸収しないため、ニオイや肌かぶれの原因になることがあります。いまは吸水パッドや吸水ショーツといった優れたアイテムがたくさん出ているので、気軽に使ってみましょう。微量用や長時間用など、さまざまなタイプがそろっています。
ただし、吸水アイテムを24時間着用していると、尿道に無関心になることによって尿漏れが進行してしまう可能性があるので、外出時など必要なときのみ使用するのがおすすめです。
その⑤:天候に気を配る習慣
特に閉経後は、体調への女性ホルモンの影響が減り、そのかわり天候の変化等が自律神経のバランスに影響を与えやすくなります。気圧が低いとき、雨が続くとき、急に冷え込んだときなどは、反射的に膀胱の異常収縮が起きやすくなる傾向があり、尿トラブルが起こりやすい可能性があるため準備しておくと安心です。尿トラブルがある人は特に、おなかと足元を冷やさないことに気を付けましょう。おへそまで隠れて、通気性と吸湿性に優れた天然素材のショーツや腹巻きなど、着用するものの工夫もエイジング世代には大切です。
まとめ
頻尿・尿漏れは、セルフケアで改善していくことができるので、人生100年時代をいくつになっても明るく過ごすことができるヒントとしてご紹介しました。ただし、しばらく続けても状態が変わらなかったり、日常生活に支障が出ていたりする場合は、泌尿器科などの医療機関に相談してみましょう。
頻尿・尿漏れに加えて、残尿感がある、知らぬ間に漏れていた、大量に漏れてしまう、尿に血液が混じるといった場合は、病気が隠れているケースもあるため、早めに泌尿器科を受診してください。
Text:Tamae Seto
【監修】

『女性医療クリニックLUNAグループ』理事長
関口 由紀(せきぐち ゆき)
医学博士、経営学修士(MBA)、日本メンズヘルス医学会テストステロン治療認定医、日本泌尿器科学会専門医、日本排尿機能学会専門医、日本女性骨盤底医学会専門医、日本性機能学会専門医、日本東洋医学会専門医。人生100歳時代の日本の中高年女性の骨盤底・血管・骨・筋肉の総合的な維持管理を提唱し、生涯にわたるヘルスケアを実践している。横浜市立大学院医学部泌尿器病態学講座客員教授、女性のためのインターネットサイト・フェムゾーンラボ社長、日本フェムテック協会代表理事。