深川圭さん(32歳)
特技は英会話、パーティで飲むならビール、音楽を聴くなら洋楽、趣味はスケートボード。深川圭さんのこれまでの人生はアメリカの文化から色濃く影響を受けてきました。
そんな深川さんの脳裏に、ある日、ひとつの疑問が浮かびました。
「なぜ日本人として生まれてきたのに、僕はアメリカの文化を追い続けているのか?日本の伝統文化のなかにも、自分が知らない普遍的なものがあるのでは?」
そこで“人生初”の体験として選んだのが「茶道」です。深川さんはふだん親しんでいる文化からかけ離れた世界を体験することでなにを見つけたのか、インタビューで聞きました。
たくさんあるんですが、一番の魅力は滑るたびに自分に課題を与えてそれを乗り越えていくところですね。スケートボードで新しい技を試そうとすると、必ずなにか障害が立ちはだかります。それを乗り越えることによって、自分自身がアップデートされる。そして、結果的に自分のなかで物事に対する見方が変わっていくのです。
だから、休日はだいたいスケートパークで滑っています。そうでなければ映画を観ることが多いですね。
僕は仲間とスケートボードを被写体にした映像作品を制作し、それを上映するイベントも開催しています。そういうイベントでは、来てくれた人たちにビールを無料で振る舞うというスケートボードのカルチャーがあります。
あるとき、ビールではなくてお茶を振る舞ったらどうなるんだろうと考えました。それによって、なにか新しいニュアンスが生まれるんじゃないか。ビールを飲んでワーッと盛り上がって終わりではなく、まったく異なる深い体験が生まれるかもしれないと思ったんです。
僕はずっとアメリカ文化に強く影響を受けて来ましたが、日本人として生まれてきたからには、日本の伝統文化の奥深くに流れる普遍性に目を向けてみたいという想いもありました。
基本的な流れや所作などを調べたい気持ちはとても強かったのですが、フレッシュな気持ちで臨みたかったので、特に準備はしませんでした。
茶道で必要なものは、着物とか茶碗とか、いまの僕の日常のなかに存在しないものばかりなので、もし今後も続けることになって一からそれを揃えようとなると大変だなとは思いましたね。
結局、なにも準備せずに体験の当日を迎えたんですが、茶道の先生がすごく怖い人だったらどうしようと、急に不安になりました(笑)。
相手に敬意をもって接するという姿勢を茶道から学んだように思います。
それに、普段いかに自分が無駄に動いていたのかがわかりました。茶席で僕の両隣に座った方々はジッと動かず、ちゃんと自分をコントロールしているんだと感じました。
そして、動くときは一つの目標に向かって余計な動作を挟まずに動く。すごくシンプルなのですが、無駄に動かないというのは僕にとってはすごく難しいことでした。
また、それは「間(ま)」にもつながることに気づきました。僕は日常の会話で「間」を使ってないな、と。普段は愛想笑いや相槌で会話のなかの「間」を埋めてしまう。でも、お茶席では「間」が「間」のままそこにあります。それに慣れていないから、なにかで間を埋めようと体が動いてしまうのです。そんな自分に気づいて、とても興味深く感じました。
実際に体験してみると、茶道というものはシンプルで静かなものなのですが、その奥底ではなにかが激しく動いているという印象を受けました。本来はアグレッシブなものなのですが、それを静的に所作で表現している感じです。
今回は茶道を体験したので、日本の伝統文化つながりで、歌舞伎や能もやってみたいですね。茶道は客人を思いやって自分がいかに振る舞うかが重要ですが、歌舞伎や能はそれとは違う世界だと思います。日本の伝統文化は、言葉にはできない抽象的な概念を突き詰めて表現しているので、それをもっと追求してみたいです。
“人生初”の体験を習慣にするのは難しいけれど、自分のなかの常識を壊すためにも、これからも柔軟に体験していきたいと思います。僕は自分でもポジティブな性格だと思いますが、同時にすごく頑固な面もあります。年をとるにつれて「あれはこう」「これはこう」と自分で勝手に決めつけて、それが僕以外の人たちにとっても常識だと考えるようになってしまった。そんな自分を変えるうえでも、今回のように人生で初めてのなにかを体験することは大切だと思いました。