紺野相龍さん(70歳)
オートバイでのツーリングから落語を演じることまで、幅広い趣味をお持ちの紺野相龍さんが、幼いころからずっと夢見ていたのは、大空を飛ぶこと。“人生初”の経験としてパラグライダーを選んだのも自然なことでした。
「自分には縁がない」と大人になってからは空への憧れを封印していましたが、飛ぶと決めてからはかつての熱い想いがよみがえってきたようです。
「高いところは得意ではない」と打ち明けてくれた紺野さんの“人生初”がどんな体験になったのか、ご本人に話をお聞きしました。
趣味をずっと続けていけるように、健康には気をつけています。毎朝、無調整の豆乳を飲むことと、一万歩歩くことが健康の秘訣です。
趣味はアウトドアとインドアの両方楽しんでいます。アウトドアの趣味はオートバイでのツーリング。気ままにオートバイを飛ばして見知らぬ町や村に迷い込むとワクワクします。インドアの方は落語です。鑑賞するだけではなく自分で演じることもあります。仲間と一緒に定期的に落語会を開催するほか、年末は独演会も開き「芝浜」や「中村仲蔵」といった大ネタを披露しています。カラダを使うツーリングとアタマを使う落語の両方を続けることで、バランスのいい毎日が送れているのではないでしょうか。
大空への憧れを、60年以上前、まだ私が子供だったころから胸に抱いていました。青森県八戸市で過ごした幼少時代、シーツをマントのようにまとって屋根の上から飛ぼうとしたこともありました。落下傘のおもちゃを宙に放って、それがフワフワと落ちてくるのを眺めるのが好きでしたね。落下傘を身につけて実際に空から降りてきたらどんな気分だろうかと想像していました。
しかし、大人になると、当然のことですがシーツをまとっても空を飛べないことはわかりますし、自分が高いところがあまり得意ではないことにも気づきました。スカイダイビングの映像を観て「すごい!」と思っても、簡単に体験することはできないし、いつしか飛ぶことを諦めてしまったんです。
そんなあるとき、パラシュートを趣味としている友人ができ、彼が「自分も高いところは苦手だけど、高いところに立つのと大空を飛ぶことはまったくの別物だよ」と話してくれたのです。また、風の力で舞い上がるパラグライダーというものがあることを知り、空への想いがまた沸々と湧いてきました。
そもそも高いところに行くこともあまりないので、いざ飛ぶとなったらやはり不安を感じました。それが体験の前日になると、ここまで来たのだから後には引けないという、使命感のようなものに衝き動かされていたように思います。落ちたらどうしようなどということは考えないようにしていましたね。それよりも、幼いことから夢が実現することへの期待の方が大きかった。
飛ぶまでの手順や注意事項についてのレクチャーを受け、イメージトレーニングを行ったのちに、急斜面に立ったときは身が引き締まる思いでした。しかも、装備を固定するカラビナという金属のリングが思ったよりも小さくて、しかもワンタッチで外れることがわかったときには、急に不安が襲ってきました。飛んでいるときにカラビナが外れたらどうしようなんて、ついつい考えてしまうのです。最終的にインストラクターの方が異常がないかチェックしながらカラビナを装着してくださったので、そんな心配は無用だったのですが。
機具を装着したあとは、飛ぶ前に斜面の上でパラシュートを開きます。するとパラシュートが風を受けて後ろに引っ張られるんです。それに負けないように足を前に踏み出しました。急斜面を下っているときは無我夢中でした。足が地面から浮いて空に飛び出したときには、言葉では言い表せないような自由な感覚に包まれました。
さわやかな空気や風のにおい・・・それは地上では味わったことのないものでした。眼下には田んぼや建物がくっきりと見える。そうしているうちに気流にのってどんどん上昇し、太陽が目に入りました。そのとき「あぁ、いま自分は空にいるんだなぁ」と実感しましたね。
飛んでいる最中にインストラクターの方から、トンビが空をクルクルと回っているのはそこに上昇気流があるからだというお話を聞いて、トンビと同じように気流にのっていると思うと愉快な気持ちになったことも覚えています。
期待以上の体験でした。飛ぶということはこんな感じかなとずっと想像してきましたし、いまの時代はバーチャルで飛ぶ体験もできるでしょう。しかし、今回体験したように五感のすべてが刺激されるような体験は、テクノロジーが進歩してもなかなか実現できないのではないでしょうか。
人生には実際にやってみないとわからないことがたくさんありますね。人生を充実させるためには“人生初”に向かって飛び出す勇気が必要だと思いました。これからも、五感をフルに生かして“人生初”を体験して、もっともっと人生を豊かなものにしたいですね。